繊細優美な工芸うちわ 国産材料・国内生産にこだわる京うちわ阿以波

暑い夏が到来しました。電気代が高騰し、節約のために知恵を絞り涼を求める工夫がなされています。

その対策の一つとして、うちわを使用される方も多いのではないでしょうか。

うちわと言えば、どんな印象を持たれるでしょう。

仰いで涼をとるものではありますが、ノベルティグッズとして、推し活グッズとして、広告媒体として、そして飾って楽しむものとして、現在では一年中使える身近なアイテムに仲間入りしました。

ご紹介するのは「京うちわ」、飾るためのうちわです。この時季になると部屋に飾ってしつらえます。

繊細で優美なうちわがとてもステキで職人技が至るところに盛り込まれた「京うちわ」は目を楽しませてくれます。

工芸品が好きな母の影響で、時季が近づいてくると季節のものをしつらえることが習慣化してきました。

京うちわを飾ることもその一つです。

京うちわを飾ると、その空間がワンランクアップしたように感じてきます。

今回は「工芸うちわ」と呼ばれる伝統工芸品、その中でも「京うちわ」についてご紹介したいと思います。

目次

うちわの歴史

うちわはどのように始まったのでしょう。今まで考えてもみませんでしたが、日本の暮らしに定着するまでの歴史を知りたくなりました。

うちわの歴史は古く、紀元前3世紀の中国から古墳時代に伝わり、歴史の教科書で目にした飛鳥時代の高松塚古墳の壁画では女性がうちわの原型(さしば)を持つ姿が描かれています。

では現在のような形、使い方になるまで、どのような変遷が見られたのでしょうか。

飛鳥、奈良、平安時代の頃は、身分の高い人に華やかなうちわが作られたり、飾ったり、顔を隠すための道具として使われていたそうです。

鎌倉から戦国時代の中世には、うちわは現在の形に近づき、軽くて使いやすいものになっていきました。

戦国時代、武将たちが戦を指揮するための「軍配団扇」が生まれます。イメージができますよね。

軍配団扇は相撲の行司が力士の立ち合いや判定に使う道具、というと、もっとイメージがわいてきます。

江戸時代からは庶民の間でも、暑さをしのぐ、料理の時の火起こしなど日常の生活道具として広まっていきました。

また和歌や俳諧に出てきたり、デザインにも変化が見られ浮世絵や役者絵が描かれるようになり親しまれていきました。

明治時代には、うちわは広告媒体として使われ始めます。扇面に広告を入れてたくさんの人に配布されるようになりました。

20世紀半ばにはプラスチックを使用したうちわが主流となりました。

昔ながらのうちわは風流な日本を思い起こさせるもので、現在も職人の手作業によって丁寧に作られているのです。

日本三大うちわ

全国各地にある伝統工芸品としてのうちわ、工芸うちわは、千葉の「房州うちわ」、香川の「丸亀うちわ」そして京都の「京うちわ」が有名で日本三大うちわと呼ばれています。

それぞれに特徴があり各地に伝わる歴史、文化を背景にした魅力的な工芸うちわです。

房州うちわ

千葉県の「房州うちわ」はもともと良質な竹の生産地でした。

大正12年の関東大震災で日本橋のうちわ問屋が被災し千葉県に移住したのをきっかけに生産が拡大し現在に至ります。

「房州うちわ」は竹の丸みを活かして柄が丸くなっており、48〜64等分に割いた骨を糸で編み、半円で格子模様の美しい窓(うちわの紙が貼られていない部分)が特徴です。

丸亀うちわ

香川県の「丸亀うちわ」は金毘羅宮参拝のみやげものとして定着しています。

国内のうちわ生産量9割のシェアを誇ります。

大きな竹を平たく削った柄(男竹平柄)で、紙を貼る面の部分と持ち手の柄の部分が1本の竹で作られています。

うちわになるまで47工程あり、気の遠くなるような手作業から生まれています。

京うちわと歴史

それぞれに特徴が見られる工芸うちわですが、京うちわの特徴はどんなものでしょうか。

京うちわは本体の部分と柄の部分をべつべつに作っていき、最後に柄の部分を本体に挿しこむ「挿し柄」が特徴です。

骨の数が多ければ多いほど高級なうちわとなります。

うちわのルーツとしては中国系、朝鮮系、南方系とあり、京うちわは中国・朝鮮系を汲んでいます。

南北朝時代に朝鮮から伝わり、京都の貴族のために生産が始まりました。

宮廷用の京うちわは、土佐派や狩野派の絵師が図案を描き、御所うちわと呼ばれました。

うちわの形態もさまざまに派生しましたが、京うちわは千年の都・京都の風土と文化に育まれながら他の地域にはない繊細で優雅な雰囲気を持っています。

高品質な材料、漆塗りや金彩が施され、まさに美術品、芸術品として価値の高いうちわです。

京うちわ 阿以波とは

阿以波は「あいば」と読みます。

京うちわ阿以波は元禄2年(1682)創業の歴史があり、明治以後、新しい発想でさまざまなうちわを世に送り、業界を牽引してこられました。

多くの絵師を抱え版画の図書出版も行っておられたようですが、7代目からは団扇専門店となり、阿以波の印刷技術を持って京うちわの量産が行われるようになったそうです。

経営哲学を確立した7代目の「うちわ一筋、他業に手を染めず、うちわに全精魂を打ち込む」という指針を守り続けられています。

この時代に、ひとつの道を辿り続けるのは大変難しいことですが、守りながらも新たな形を創造する理念、心意気が素晴らしいと感じます。

竹は丹波の4〜5年もの、紙は越前、越中八尾の手すき楮紙、柄の部分は、栂(とが)という杉材、国内産の最良の材料と道具にこだわって作っていらっしゃいます。

磨き抜かれた職人の技能を育て上げられ、阿以波の京うちわは京都の伝統工芸品として他とは一線を画す美しさで圧倒しているのです。

京うちわ阿以波の魅力

私が感じる京うちわ阿以波の魅力をお伝えしましょう。

季節のインテリア、飾って目で楽しむ

まず阿以波のうちわは飾ることで魅力が発揮されます。

四季折々の花鳥風月をあしらったうちわは和のしつらえにはもちろんのこと、現代の洋の空間にも似合う雰囲気を持ち合わせています。

生花の代わりや絵画のように飾り、目で見て楽しむことができるのです。

新作が毎年出るのでご自宅のインテリアに合うデザインを選ばれるのも楽しみが生まれるかもしれません。

温暖化で日本でも四季を感じることが難しくなってきましたが、うちわで四季を感じてみてはいかがでしょうか。

目にもうっとりの美しさはきっと心を和ませてくれるはずです。

またうちわは「魔を打ち払う」と言われ、飾ることによって、邪気を払うと言われています。

涼をとるだけでなく、その風によって邪気を打ち払う、厄払い、縁起物としても活用できます。

扇ぐ風の軽やかさと添えられた香り

本来うちわと言えば扇ぐことがメインになりますが、扇ぐその風がなんとも軽やかなのです。その風あたりは実際に体験しないとわからないのが残念です。

そのうちわの大きさや柄の長さによっても得られる風の具合は違います。

また阿以波のうちわには、手作りの千鳥のお香が一緒に添えられているというのが何とも粋です。

香りも上品な良い香り。扇ぐことによってその移り香も一緒にふわっと香り心地よい時間が流れます。

阿以波さんの心遣いが感じられる、とても心にくいサービスですよね。

贈答品やお土産として

うちわは涼をとるだけでなく、先程も述べましたように、その風で、魔・邪気を打ち払うと言われ縁起物でもあります。

繊細で優美な透かしうちわは贈って喜ばれる品物です。

柔らかな風と共に送り主の贈られる方への気持ちも運んでくれるセンスの良い贈り物だと思いませんか。

贈られる方にいい風が吹きますようにと願いを込めて贈られてみてはいかがでしょう。

伝統を守りながらの新たな試み

季節の花や生き物など伝統的な図柄を丁寧に手作業で作りあげることはもちろんのことですが、これまでにない新たな試みにもチャレンジされています。

2020年からはウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社監修のもとディズニー/京都工芸シリーズとして製作されたディズニーキャラクターのうちわも作られるようになりました。

阿以波さんのファーストうちわとして気楽に選んでみてもいいかもしれませんね。

京うちわの製作過程と種類

製作過程

美しい絵柄と職人の繊細で高度な技術を持って、どのようにして京うちわは作られていくのでしょうか。その工程は全部で16工程あります。

現在では紙漉き以外の工程全部を阿以波さんがやっておられるそうで、職人さんの大変さを物語っています。

①うちわ骨の加工 胴切(どうぎり)

 節を除いて輪切りにして裁断します。京うちわの骨は丹波の真竹が良いようです。

②割竹(わりたけ)

 胴切りした竹のうちわの幅に合わせて、縦に細かく割っていきます。

③巾そろえ

 うちわ骨となる竹の幅をそろえます。

④厚さそろえ

 うちわ骨となる竹の厚さをそろえていきます。

⑤きざみ

 うちわ骨となる竹の上端に細かく刻みを入れていきます。

⑥もみ

 上端にきざみを入れたものを竹の繊維にそって左右交互に、もみ割りします。

⑦へぎ

 うちわ骨の竹を必要な厚さになるまでさらに薄くしていきます。

⑧うちわ紙加飾

 手描きで絵を描いたり、絵柄の木版、染め、切り絵、貼り絵など、うちわ紙に装飾していきます。

⑨裏張り加工

 仮張り

 薄い紙に細竹を糊付けします。竹の断面は長方形で糊付けは短い方の辺にします。こちらの作業が製作工程でのポイントになるようです。同じ状態で次々に張って仕上げる、常に一定に保つということが難しいそうです。

⑩裏張り

 仮張りした面の裏側に、うちわの裏側になる紙(裏地紙)を貼ります。

⑪めくり

 うちわの裏側の紙と骨が完全に密着したら、表面に仮張りした紙をめくり(剥がし)ます。

⑫仕上げ加工 合わせ

 うちわに表の紙を貼ります。

⑬念付け

 細竹の両面にうちわ紙が貼られたあと、念ベラを用いて、うちわ骨の際に筋をつけていきます。こちらの作業は言葉通りの丁寧さが要求されます。

⑭元板付け

 柄を挿す部分に布または厚手の紙を貼ります。

⑮なり廻し

 念付けの終わったものを、うちわの形に切り取り、成型します。

⑯へり取り

 一定の形に切った後、周囲に薄い紙を貼ります。これに柄をつけて完成です。

 

京うちわの種類

種類やサイズ、形も豊富にありますので、ご自分にとってのベストなうちわを見つけてみるのも楽しい作業になりそうです。

また、うちわを飾ったり、置いておくための飾り具もありますので、インテリアに合わせて選んでいただくことができますよ。

両透かし(飾り用)

四季の花鳥風月を絵画のように目で楽しむうちわです。骨の数が90〜120本と多く(通常は骨は60本)細かく並べた上に繊細な切り絵細工を施したものです。

全部が手作業、こだわりの逸品はまさに芸術作品です。

両透かし(実用)

透かしの柄はアクセントとして、面全体でしっかりと風を感じることができます。

片透かし

飾りうちわの技法はそのままに、しっかりと風を感じることができるうちわです。

木版

江戸時代から残る木版を使い、伝統的な版画の技法で仕上げたうちわです。

新たなうちわ文化を創造する

京うちわは扇ぐだけでなく、美術工芸品として目を楽しませ、生活に潤いを与え、心に余裕さえ与えてくれると感じます。

しかし高齢化や材料の入手難、需要の減少、熟練の技を持った職人さんの減少など課題は山積み。

作り手がいなくなくなれば、そのもの自体なくなってしまいます。

京うちわだけでなく他の伝統工芸品にも同じ課題があります。

しかし、それでも絶やすことなく、伝統を守りながらも新しいものを模索し創造し、存在することを願っています。

いかがでしたでしょうか。京うちわに興味を持ってくださったら嬉しいです。

贈り物やご自分用に、京都を訪れた際はぜひお店をのぞいてみてください。

最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

ライター:吉田美佳

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