もてなす くつろぐ  香りがそばにある暮らし 香の老舗 松栄堂

家に帰り一歩入った先に一番初めに感じるのは、その家の匂い、香りのように思います。

子供の頃は、お香が炊かれていると、来客があったのか、それとも来客予定があるのか、はたまたなんとなく空間を気分転換するために、お香を使ったのかなと想像していました。

お香のイメージはなんとなく古くさいような気がしてあまり好きではありませんでした。またお香イコールお仏壇のお線香とイメージが固定されていたのかもしれません。

ほのかにふわっと感じる香りが、余裕のある大人びた印象として受けたり、お客さまをもてなしたり、癒したりするのだろうと思い始めたのは、自分が少し年を重ねてきたからかもしれません。

家の中に香を炊いた残り香があるのは、なんとも風情があって、その空間が大好きです。

今回はおもてなしにも自分にも使えるお香についてご紹介致します。

目次

お香とは?

お香は現在ではインセンスとも呼ばれインテリアショップやセレクトショップ、ドラッグストアまで、あらゆるところで目にするようになってきました。

それだけ香りというものが人々に浸透してきているのかもしれません。

一般化してきたお香(インセンス)について歴史や起源、材料や製造方法はどうなのか知りたくなってきました。

お香の歴史・起源

もともとは紀元前3000年前、メソポタミア文明が栄えた頃、樹脂や香木を焚く習慣が生まれ、紀元前1400年頃、古代エジプトの女王がお香を世界に広めたとされています。

日本でお香が用いられるようになったのは飛鳥時代、およそ1400年前から始まったと考えられています。

仏教伝来、様々な仏教儀礼と共にお香も大陸から伝えられました。595年、日本で最も古いお香に関する記述が日本書記に記されています。

奈良時代は主に仏前を浄めて邪気を払うこととして用いられ、宗教的な意味合いが強いものでした。今のような使い方ではなく、香料自体を直接火にくべて焚かれていたようです。

それが鑑真和上が来日してお香を取り巻く環境が一変しました。仏のためのお供えの香ではなく、日常生活の中でも香りを楽しむようになったのです。

平安時代にはお香が嗜好品として普及していきました。宗教的な意味合いが強かった文化から趣味として香りを楽しむ文化へと変化していき、あらゆる楽しみ方が生まれました。

貴族は、自ら香料を練り合わせて調合した物を炭火でくゆらせて、部屋へ衣服へ香りを移す「移香」を楽しんだり、また香袋なども生まれました。

鎌倉・室町時代、香木そのものの香りを鑑賞する「聞香」、茶の湯と同じく文化を担いました。

江戸時代には経済力のある町人にも香文化は広まりました。また中国からお線香の製造技術が伝わり、庶民にもお線香が浸透していきます。

そして現代、日本独自の香りだけでなく、現代の日本人の暮らしに合う新しい香りが生まれて、変化を成す最中でもあります。

https://www.shoyeido.co.jp/incense/history.html

お香の原料

お香は自然からの贈りもの、伽羅、沈香、白檀などの天然香木、天然香料には数十種類、桂皮、丁子など、どれも天然のものなので入手困難なものも少なくありません。

自然環境を取り巻く環境は、世界情勢の変化で安定的に供給することが次第に困難となってきました。保全管理が当面の課題のようです。

https://www.shoyeido.co.jp/incense/material.html

お香の製造方法(お線香)

①計量・調合・攪拌

まず、原料となる様々な香料を粉末にして、計量します。製品に応じて調合した原料につなぎとなる粉を加え攪拌、ふるいにかけて均一に混合します。

②練り

ふるいにかけた原料を攪拌しながら適量の水と着色料を加えます。熟達の技と勘で粘土状になるまで練り上げていきます。

③玉締め

練り上げた素材を型に入れ、円筒状にプレス成型します。

④押し出し・盆切り

成形した素材を油圧押し出し機に入れ、小さな穴から押し出します。それを板に受け竹べらで両端を切り落とします。

⑤生付け

板上に受けたお線香を板に移し替え、すき間のないように敷き詰めて揃えます。はみ出した部分を切り落とし、乾燥用の板に移し替えます。

⑥乾燥

温度、湿度を一定に保った乾燥室の中に入れ送風機で空気を循環させ、数日間かけてゆっくり乾燥します。

https://www.shoyeido.co.jp/incense/flow.html

お香の魅力

私が思うお香の魅力を紹介いたします。

お香は使い分けて楽しめる

香り、形、使い方、いろいろな種類からご自分好みのものを選んでいただけます。

例えば、手軽に楽しみたいならば、お線香のスティックタイプが便利でおすすめです。

我が家ではこれを一番使っています。

直接火を付けるお香(スティックや円すい型)は、あまり難しいことを考えず、焚く場所によって香りを使い分けるのも楽しいですよ。

スティックは燃えている面積が均一なので香りも均一に広がります。

お香を立てる香立を選ぶ楽しみもあって面白いです。

円錐型は先端より火をつけるので下にいくほど面積が広くなり、香りが徐々に強まります。

短い時間で香りが欲しい場合に便利と言えますね。

灰がそのままの形で残るのも散らばる心配がなくて良いです。

香りでもてなす

玄関や招かれた部屋へ入り、そこはかとなく漂う香りがあればとても粋に感じます。

自分のためにチョイスしてくれた香りは、相手のおもてなしの心を包んでくれるように思います。

私の年上の友人宅では訪れた際に香りでまずもてなしてくれています。あるかないかのほのかに感じる香りと共に相手の心配りを感じるのです。とても素敵だなあと感心したことを覚えています。

香りでくつろぐ

忙しい日々の中に自分のために使うゆとりの時間、お香で気持ちをゆったりとすることができます。

香りで静かにくつろぎの時間を設けられます。自然な残り香を楽しむのもひとつ趣がありますね。

匂い袋や文香などで奥ゆかしく

人とすれ違う瞬間、香水やコロンとは違う趣の、さりげなく忍ばせた匂い袋から漂う香りも素敵です。

匂い袋はタンスに入れて衣服にその香りを移したり、着物の時は帯揚げに通したり、袂に入れたりして使えます。

洋服の場合はポケットやポーチに付けたりしてもいいですね。車の中でも使えます。

手紙や財布、名刺に文香を忍ばせるのもかっこいいです。

香立もまたおもしろい

お香を立てる香立もいろいろなデザインがあっておもしろいですよ。

シーンに合わせて香皿と組み合わせてみたり、季節で柄を使い分けたりするのも楽しいです。

私はお花型で錫製の香立を愛用しています。

お香の老舗 松栄堂

日本各地にお香のメーカーはありますが、私が愛用しているお香は京都の松栄堂さんです。

松栄堂の歴史

創業は宝永年間、今から300年ほど前に京都で創業されました。3代目の頃に「松栄堂」として本格的に香づくりに携われたようです。

諸外国の生活様式にもふさわしい商品を開発し、明治時代には対米輸出にも成功しました。

現在は伝統の香りを継承しながらも先進技術の開発に励み、世界各国に日本の香りを届けていらっしゃいます。

松栄堂の理念

細く 長く 曲がることなく いつも くすくすくすぶって あまねく広く世の中へ

この文がとても心にささりました。お香の本質がこの言葉に集約されている気がします。

貴重かつ繊細な天然香料は細やかな心くばりが要求され、調香師の熟練の手と技、本物を求める心と研ぎ澄まされた感覚の全てが揃って初めて創られるものです。

伝統の技、心を重んじながら最新の技術革新にも意欲を燃やしてたゆまない努力をしていく老舗の心意気がお香につまっていると感じました。

化学的に香りを合成するのではなく、天然香料にもこだわりを持っておられます。

天然香料の繊細さと雅趣を損なうことなく、我々のところまで届けてくださる気持ちもまた嬉しいですね。

吟味された品質のお香をほんの少し用いて、日常生活に彩りを添えてくれています。

自然への敬意とその恵みを享受して、高品質な薫香を創造し、その香りを通して「香りある豊かな暮らし」を提案するという理念のもとなら、安心して使用できますね。

松栄堂の文化活動・環境活動

松栄堂は文化活動や環境活動にも取り組んでいらっしゃいます。

文化活動として、多くの人にお香の世界を紹介し理解を深めていただく活動をされています。

例えば、長い歴史の中で培われてきたお香やお茶の文化を次世代へ伝えるために「お香とお茶の会」が開催されています。

環境活動として、草根木皮を原料とした薫香の製造販売の商いとして生物多様性について取り組まれ、希少植物の生息域外保全活動として希少植物の育成を行っていらっしゃいます。

ただ商品を売っておしまいではなく、材料となる植物の保全活動をされたり、製造にも細やかな気配りを持ち、お香への理解、普及にも取り組まれ、企業努力が見えますね。

このように真摯に取り組んでおられる会社の製品は消費者にとっても信頼を持って使うことができるのです。

お香の選び方・使い方

初心者におすすめのお香

初心者が使うお香には、スティックタイプ、コーンタイプ(円すい型)がおすすめです。

スティックタイプはお店でよく見かけますよね。

一定の太さで燃え進んでいくので、最後まで安定した香りが得られるという特長があります。

手軽に楽しむならスティックタイプです。

燃焼時間は長さにもよりますが、7㎝で約20分はもちますでしょうか。

コーンタイプ(円すい型)は灰が散らずに使いやすく、短時間で強い香りを出せるのが特長です。

高さ2㎝5㎜程度、燃焼時間は約15分です。

まだお香を使い始めて間もない頃や狭い空間でお香を使用すると香りがきつく感じられるかもしれません。

部屋は締め切らずになるべく広い空間で使用されることをおすすめ致します。

香りも好みがありますので、何種類か入っているバリエーションのあるセットのものを購入し、その中から好みの香を発見したり、その日の気分で香を使い分けるといいでしょう。

今は香りもいろいろな種類があります。ローズやラベンダー、シトラス、グレープフルーツ、ミックスベリーなどのフルーツ系、オリエンタルな香りなど楽しめますよ。

香りで場面を演出

香りのあるライフスタイルは、生活にリズムと安らぎを与えてくれるものです。

自分のアイデア次第でお香も身近な存在になります。

◎玄関先・・ドアや戸の開閉で空気が入れ替わることが多い玄関先には、長時間使用可能な渦巻タイプがおすすめです。

◎台所・・・食事の片付けが終わってホッと一息ついたり、いろいろな食材の匂いを新鮮な香りでリフレッシュするのもいいですね。

◎和室・・・ゆっくりと落ち着いた時間をお気に入りの香炉でくつろいでみては。

◎リビング・・家族や友人と過ごす空間はカジュアルに楽しめるスティックタイプがいいでしょう。

◎クローゼット・・お好きな香りに匂い袋を忍ばせてみてください。バッグや車の中で使用されてもいいですね。

◎洗面所・・・爽やかな香りで毎朝をリフレッシュしてみてはいかがでしょうか。

自分好みの香りと出会える日まで

いかがでしたでしょうか。

お香には、直接火をつけるお香(お線香)、常温で楽しむお香(匂い袋など)の他に、間接的に温めるお香(練香、香木など)もあり、本当に奥深いです。

香道と言って天然香木の香りを鑑賞する芸道もあります。

伝統的な和の香り、華やかな洋風なものまでさまざまある香り。

外国製のインセンスももちろん魅力的ではありますが、日本のお香もまた各社それぞれに魅力あるものでしょう。

国内製品のお香も手にとっていただき、お好みの香り、自分だけの香りにめぐり合えるまで、いろいろな香りを試してみて、ゆっくりその時間を楽しまれてはいかがでしょうか。

ライター:吉田美佳

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