知れば知るほど、もっと知りたくなる!奥深く魅惑的な江戸切子の世界

日本の伝統工芸品の中に、「江戸切子」があるのをご存じでしょうか?

東京スカイツリーのエレベーターの内装に採用され、その美しさで名を馳せた江戸切子。

近年では、その美しく印象的な文様と精巧なカットに魅了され、ファンが増えているそうです。

知れば知るほど奥が深く、もっと知りたくなる魅惑的な江戸切子の世界をご紹介します。

目次

江戸切子とは?薩摩切子との違いは?

江戸切子や薩摩切子。聞いたことはあるけれど、その前にまずは「切子(きりこ)」とはなんでしょう?

「切子」とは、ガラスの表面に回転砥石などで溝を入れたりカットを入れて模様をつけることです。

この技法を「カットガラス」と言い、その和名が「切子」です。

16世紀以降、宣教師たちが来日し、この「カットガラス」の技法が日本に持ち込まれるようになりました。はじめに長崎でガラス作りが行われるようになり、その後、大阪、江戸、薩摩と全国へ広がっていったそうです。

その切子の中でも、江戸切子と薩摩切子は日本を代表する切子です。

では、江戸切子と薩摩切子はなにが違うのでしょう?それぞれの誕生背景と特徴を紹介します。

1.江戸切子誕生の背景

江戸切子は庶民の文化から生まれたと言われています。

1820年代後半、加賀屋久兵衛というガラス問屋で、江戸で初めてのガラスが作られ切子の技法も生まれました。

1830年代になると、加賀屋で研磨剤を用いた技法が誕生し、多くの職人たちによって、食器、風鈴、重箱等が作られるようになり江戸の庶民に愛される日用品になっていきました。特に風鈴が人気だったようです。江戸切子の風鈴なんて、とても贅沢ですよね!

2.江戸切子の特徴

江戸切子はシャープなカット面で、ガラスの透明な部分と色のついた部分のコントラストがはっきりとしているのが特徴です。

文様は、魚の卵が連なったように見える魚子(ななこ)や、植物をモチーフにした麻の葉・菊繋ぎなど、庶民に親しみがある粋なものが多いのも特徴のひとつです。また薩摩切子に比べ薄い作りです。

「江戸切子」と称することができるのは、江戸切子協同組合が定めた以下の基準を守り、同組合に認定されたものだけです。

  1. ガラスである
  2. 手作業
  3. 主に回転道具を使用する
  4. 江戸切子協同組合が指定する区域(※ 江東区を中心とした関東一円)で生産されている

江戸切子について

江戸切子は、経済産業省が認定する国の伝統工芸品のひとつです。

現在、江戸切子の職人は100名ほどで、そのうち伝統工芸士は22名です。

伝統工芸品(METI/経済産業省)

3.薩摩切子誕生の背景

薩摩切子は、島津斉彬(なりあきら)が外交品として藩の産業にしようと開発されたと言われています。

色ガラスの研究を進めた結果、「紅・藍・紫・緑」の発色に成功。その中でも「紅」は「薩摩の紅ガラス」と呼ばれ、薩摩切子を代表する色となりました。しかし薩摩切子が繁栄したのは1851年〜1858年のわずか7年間。

斉彬の死をきっかけに衰退し「幻の切子」と呼ばれるように…。それから100年後、島津家に残されていた資料や薩摩切子をもとに復元され、「薩摩ガラス工芸」の設立を機に、薩摩切子は甦ります。

4.薩摩切子の特徴

薩摩切子は、カット面の境界線があいまいで、色の濃いところからだんだんと色彩が薄くなるグラデーションの「ぼかし」が独特です。

文様は、籠目(かごめ)文様の中に魚子(ななこ)文様を施すなど、細かくて豪華なものが多く、飲み口が透明なのも薩摩切子の特徴の一つです。また薩摩切子は、ガラス2枚分の厚みがあり重厚な作りです。

以前、友人宅で薩摩切子のロックグラスを使わせてもらった際、その重量感に驚き、思わず両手でグラスを持ちました。

薩摩切子は、鹿児島県の伝統工芸品のひとつです。

伝統工芸品(鹿児島県)

見た目の違いだけでなく歴史的背景を知り、理解することで、さらに愛着が増し、より価値あるものに感じますね。

そして、江戸切子を紹介する時にこんな話がさらりと出来たらカッコいいですし、ぐっと深みが増しますね。

江戸切子の文様の種類や色の違いは?値段も違うの?

江戸切子の文様や色には、さまざまなバリエーションがあります。

「何がどう違うのかな?」と気になったので調べてみました。

1.江戸切子の文様の種類

江戸切子に使用されている文様の種類はどれくらいあるのでしょうか?

江戸切子の各工房のWebサイトで紹介されている代表的な伝統の文様だけでも、15種類以上はあるようですが、使用する文様にルールはなく、工房でオリジナルの文様を製作し、独自で名前を付けているものもあるそうです。

これらの文様には、それぞれ意味があり、願いが込められています。

代表的な文様で江戸の庶民に愛された文様をご紹介します。私も好きな文様です!

魚子(ななこ)

引用:https://www.edokiriko.or.jp/about.htmlより

江戸切子の中で最も代表的な文様の一つで、織物や金工品といったさまざまな日本の伝統工芸品において古くから使われてきた文様です。

魚の卵や鱗がモチーフといわれ、子孫繁栄の願いが込められています。

昔、魚は「な」と読まれていたそうで、「魚の子」から「ななこ」という読みになったそうです。なかなか、魚を「な」とは読めませんよね。 

麻の葉(あさのは)

引用:https://www.edokiriko.or.jp/about.htmlより

日本の文様の中でも非常に伝統のある模様の一つです。

麻の葉を上から見た姿を表していて、平安時代から仏像の装飾などに使われ、江戸時代には着物の柄として人気を集めました。

丈夫で成長が早く、まっすぐに伸びる麻にあやかり、子供の健やかな成長を願う柄として親しまれてきました。

菊繋ぎ(きくつなぎ)

引用:https://www.edokiriko.or.jp/about.htmlより

江戸切子と言えばこの文様というくらい代表的な文様の一つで、菊の花が連なっているような文様が特徴です。

菊は薬として使われてきたことから、長寿、健康、無病息災、邪気払いの効果の意味を込めて使用されている縁起の良い文様です。

また、高貴、高潔、高尚の意味もあり品格を表す文様でもあります。

その他にも魅力的な文様がたくさんありますので、これから購入をお考えの方、すでにお持ちの方もこちらを参考になさってください。

江戸切子の代表的文様

文様に込められた意味を知ると、またまた愛着が増しますね。そして、奥が深い世界だなと感じます。

プレゼントにする際には、贈る相手の好みに加え、この文様に込められた願いも一緒に贈ることができれば素敵ですね。

2.江戸切子の色と値段の関係

江戸切子に使用されている色にはどんなものがあるのでしょうか?

江戸切子の伝統的な色は、瑠璃(濃い目の青)と赤です。日本最古の基本色は、「赤、青、白、黒」と言われており、この中の「青と赤」を使っていることから、工芸品として伝統を大切にしていることが分かります。

この他にも「青、金赤、青紫、黒、黄、透明、緑」等の色とりどりの江戸切子が販売されており、最近では、二つの色が重なってグラデーションになっている「2色被せ」という手法で作られた切子に、人気と注目が集まっているそうです。

「透明」は、私はあまり見かけたことがないので少し意外でしたが、現在、目にする多くの江戸切子は「色被せ(いろきせ)ガラス」で、外側に色付きガラス、内側に透明なガラスの二重構造で、昔の切子は「透きガラス」の無色透明だったようです。

色を付け始めたのは、大正の頃からだそうです。

では、色によって値段の違いはあるのでしょうか?

実は色によって値段の違いがあります!最も値段が高いのは「黒」です。

その理由は「黒」のような色が濃いガラスをカットするのは難しい=職人の技術・感覚が不可欠だからです。

江戸切子をカットしていく工程では、切子を光に透かして、あらかじめ書いておいたガイド線に沿ってカットしていくのですが、色が濃いものはこのガイド線が見えづらく、慎重に作業を進めるため時間がかかります。

特に「黒」はライトに透かしても全く透けません!本当に職人泣かせです!

またガイド線以外にも、これまでの経験や勘を頼りにする必要があり、まさに熟練のなせる技なのです。その分、希少価値が高くなるということですね。

江戸切子の制作工程

江戸切子の職人さんの体感では、「黒の切子は他の色に比べて1.5~2倍高いという感覚」とも言われています。

これらの背景を知ると、これから江戸切子の「黒」を見る目が変わりますね!

私と江戸切子の出会い

私と江戸切子の出会いは約13年前、百貨店の切子コーナーでした。

私は百貨店のテーブルウエアのフロアが大好きで、特に食器類のコーナーは、他のどのフロアよりも時間をかけてゆっくり楽しむのがいつものパターン。

今までも何度と目にしてきたはずの江戸切子でしたが、その涼しげな色合いや形の可愛らしさ、デザインやカットの美しさに、何度も手に取り、眺めてはまた戻しの繰り返しです。

普段、日本酒を嗜む習慣もないのに、この江戸切子で冷酒を飲んだらおいしそうだなと、妄想劇場の始まりです。

ちょうど暑くなってくる季節だったので、江戸切子に涼を求めていたのかもしれません。

お酒だけでなく、食事の際の器として使ってもいいかな?、飾って愛でるだけでもいいかなぁ?と悩みに悩み、夏の盛りを迎えるころ、わが家に迎え入れたのでした。

この頃は、江戸切子に関する知識は全くなく、前述の文様の種類も意味も分かりませんでした。わが家の切子の文様は、調べてみても分からなかったので、購入したカガミクリスタルに問い合わせところ、「六角籠目(ろっかくかごめ)紋」との回答をいただきました。

竹籠の六角形の編み目に見立てた文様で、連続した籠目文様は古来から魔除けの効果があると言われ、悪いものを追い払うという縁起の良い意味合いが込められた文様だそうです。

愛用歴13年のおすすめ!江戸切子の活用法

休日前夜や休日に、のんびりとゆったりとした気分で江戸切子を楽しむのが大好きです。

愛用歴13年の私なりの使い方を紹介します。

1.お酒を楽しむ

冷酒だけでなく食前酒や、ほんのひとくちのビールやワイン等にもおすすめです。

口にあたる部分の厚みが絶妙なので、サラサラ〜っと口に流れてくる感覚です。

このサイズなので、あっという間に1杯がなくなります!飲み過ぎ注意でございます!

2.おつまみや一品料理を楽しむ

お酒を楽しむ際、もうひとつの楽しみは酒の肴ですよね。器をちょっと変えるだけで、いつものおつまみやお料理がワンランクアップしたように見えます。私はおやつの時間にも、ナッツやドライフルーツを入れて楽しんでいます。

3.アイスクリームを楽しむ

私が1番好きな使い方は、少しやわらかめにしたバニラアイスクリームに、某コーヒーショップの粒子の細かいインスタントコーヒーの粉をパラパラっとかけて楽しむ、私流アフォガードです。この江戸切子に入る量が、食後のデザートにはちょうどいいのです。

4.ヨーグルトを楽しむ

休日のランチに、この江戸切子でヨーグルトを楽しむのも好きです。器は同じでも、ヨーグルトに合わせる果物やジャム、ソース等で雰囲気が変わりますね。私の場合、無意識にこの江戸切子に合うようなトッピングを選んでいたりします。完全に器ありきですね!

5.眺めて楽しむ

江戸切子を使わない時は、観賞用に飾って眺めるのもおすすめです。

美しいカットの江戸切子を眺めているだけで癒され、気分が上がるような気がします。

職人さんがひとつひとつ丁寧に作ってくれて、全く同じものは世界にないと思うと、

より大切にしようと思いますね。

6.お花を楽しむ

ほんの一輪の小さな花やハーブ等を入れて楽しみます。お互いがお互いを引き立て合っているような、そんなところが魅力です。

小さなサイズですが、テーブルが上品に、華やかになります。

皆さんなら、どんな使い方をされるでしょうか?

江戸切子愛用者の方は、キャンプでお気に入りのお酒を飲むときに江戸切子を使われるそうです。空気の澄んだ非日常の空間で、お気に入りの切子で飲むお気に入りのお酒は格別でしょうね!とてもステキで、お手本にしたい贅沢な使い方ですよね。

あなたなりの使い方を見つけて、いつもの生活に日本の伝統工芸品をさりげなく取り入れていくのも素敵ですね。

江戸切子はどこで買える?ブランド紹介

江戸切子を製作する工房で、江戸切子協同組合の組合員は現在46社ほどです。

初めて江戸切子を購入される方、すでにお持ちの方も今後の参考にご覧いただければと思います。

1.江戸切子協同組合の江戸切子ショールーム

江戸切子協同組合 ショールーム

亀戸梅屋敷内に組合員の委託品や江戸切子を

展示・販売するショップ・ギャラリーを開設しています。

JR中央総武線・東武亀戸線 亀戸駅北口から徒歩10分程度なので、

お近くの方は足を運ばれてみてはいかがでしょうか?

2.根本硝子工芸

根本硝子工芸

ショールームも併設していて、カタログに掲載のない商品も多数あるとのこと。

伝統工芸士の根本達也氏が作る個性的な江戸切子「しずく」が人気です。

3.小林硝子工芸所

小林硝子工芸所

創業大正6年の歴史ある硝子工芸所です。東京都内の百貨店で定期的にイベントも開催されているようです。

複数の色のグラデーションが美しい商品が注目されています。

私が購入したカガミクリスタルでは、KAGAMI銀座ショップやKAGAMIパレスショップにて、

江戸切子の伝統工芸士の作品展を開催しています。写真を見るだけでも、その美しさにドキドキしてしまうくらいなので、皆さんにもぜひご覧いただきたいです!

詳細は、カガミクリスタル公式サイトにてご確認ください。

作品展のご紹介(カガミクリスタル)

この他にも様々なブランドがありますので、「江戸切子協同組合」公式サイトより、

組合員紹介ページをご覧いただき、お気に入りの工房を探してみてください。

江戸切子協同組合

まとめ

今回は「江戸切子」をご紹介しました。

みなさん、いかがでしたでしょうか?

今回、江戸切子について詳しく調べていく中で、「7月5日は江戸切子の日」という事を知りました。

7月5日、なんと私の誕生日なのです!

江戸切子の代表的な文様の「魚子(ななこれ)」の語呂合わせで制定されたそうですが、なんだか嬉しくなってしまいました。

今年の誕生日は、江戸切子で乾杯しようと思います!

いつも何気なく使っているグラスを、お気に入りのものに変えるだけで、飲み物はより美味しく感じ、心が満たされるようですよね。

たとえばそれが、こんなに美しく魅惑的な江戸切子だったらどうでしょう?

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ライター:tmintchoco

当メディアではライター様を募集しています
当ブログは日本のものづくりを応援しています。「国内メーカーの国産製品・サービス」について愛情たっぷりに語って頂けるライター様を募集中です。
記事のシェア
目次