日本を代表する伝統工芸の一つである九谷焼(くたにやき)は、石川県で製造されている歴史ある陶磁器です。
九谷焼の特徴は、何といってもその鮮やかで華やかな色絵装飾。
今回は九谷焼の特徴や歴史とともに、九谷焼の魅力についてたっぷりとご紹介します。
九谷焼とは
まずは九谷焼の特徴や種類、歴史などをご紹介します。
九谷焼の特徴
九谷焼は石川県南部の金沢市と小松市、加賀市、能美市で製造されている、伝統的な陶磁器です。
九谷焼でもっとも特徴的なのが、鮮やかな色絵装飾の美しさです。こちらの記事で紹介している有田焼と同様、釉薬を乗せて焼き上げた陶磁器の上に顔料で模様を描き、再度焼き上げる「上絵付け」という技法で製造されています。
九谷焼の鮮やかで華やかな作風は、日本の伝統的な陶磁器の歴史の中でもとりわけ存在感があり、国内では宮内庁からの贈答品として採用されてきたほか、英国王室でも御成婚祝として献上されるなど、国内だけに留まらず世界的に高く評価されています。
近年は海外展開に積極的な窯元やメーカーも増え、外国人にも九谷焼愛好家が増えてきました。
さて、九谷焼は「呉須(ごす)」と呼ばれる藍青色で線を描き、「五彩(ごさい)」と呼ばれる赤、黄、緑、紫、紺青の五色の絵の具を盛り付ける九谷五彩という彩法が有名ですが、窯元によっては赤色をいっさい使わなかったり、逆に赤色や青色をメインに使ったりといった作風の違いがあります。
明治時代には色絵の上に金彩色を施した「金襴手(きんらんで)」という技法が世界的に高く評価され、「ジャパンクタニ」という愛称で国境を越えて多くの人々に注目されました。
窯元の流派や技法、作風による個性を楽しめるのも、九谷焼の魅力といえるでしょう。
九谷焼は陶器か磁器か
結論からいうと、九谷焼には陶器もあれば磁器もあります。
そもそも「九谷焼」というのは、石川県で製造された陶磁器の名称であり、一種のブランドのようなもの。作風や技法を指すものではないのです。
なお、陶器と磁器の違いは、使用する原料にあります。
陶器は粘土を使って作られるのに対し、磁器は陶石を使って作られます。
仕上がりの風合いも両者はまったく異なり、陶器は土の風合いを残した温もりある仕上がりに。磁器はガラス質で滑らかな質感に仕上がるのが特徴です。
また、陶器で作った器に釉薬(ゆうやく。焼き上げるとガラス質になる絵の具のようなもの。うわぐすりともいう)を塗って焼き上げ、磁器のような見た目や質感に仕上げたものや、あえて陶器の風合いに似せて作られた磁器もあります。
九谷焼の歴史
歴史上において九谷焼の存在を最初に確認できるのは、江戸時代前期の1655年(明暦元年)頃のこと。つまり、今からおよそ370年以上も前のことです。
記録によると、鉱山を開発する中で九谷村(現在の加賀市山中温泉九谷町)にて、磁器の原料である陶石が発見されたのを機に、磁器の製造技術を習得した大聖寺藩の武士である後藤才次郎を中心に磁器の生産が開始されたそうです。
陶石が発見された九谷村は磁器の産地となり、そこに窯を設けたことから「九谷焼」と呼ばれるようになりました。
しかし、それから数十年後に九谷焼は突如として歴史から姿を消します。この時代に作られた九谷焼は「古九谷(こくたに)」と呼ばれています。
古九谷が歴史から姿を消した理由や原因を記録した資料はありません。財政難などによる廃窯や、藩の政策の転換などさまざまな憶測が交わされていますが、九谷焼が消えた原因はいまだ謎のままです。
九谷焼誕生から100年ほどが経った江戸時代後期(1800年頃)になると、九谷焼発祥の地である大聖寺藩内の九谷や山代をはじめ、加賀藩城下町の金沢や小松などで磁器の生産が再開されました。
吉田屋窯を中心に古九谷の再現が試みられると同時に、先述した金襴手や、赤絵具で器全体に細かい絵付けを行う「赤絵細密画」など、さまざまな技法が誕生したのです。
この幕末期に生まれた九谷焼は「再興九谷(さいこうくたに)」と呼ばれています。
明治時代以降になると九谷焼の美術的価値が注目されるようになり、作家性の高い作品が数多く世に放たれました。
欧米向けの輸出品が積極的に製造され始めたのもこの頃のこと。
こうして九谷焼はさまざまな変遷を経て、工芸品の枠を超えた美術品から日用品まで幅広く愛される現代的な「新九谷」へと発展していったのです。
九谷焼の主な窯元とそれぞれの特色
本項では九谷焼の主な窯元と、それぞれの特色について解説します。
古九谷(こくたに)
江戸時代前期に後藤才次郎が開窯した窯にて作られていた、最初の九谷焼です。既に九谷焼のベースとなる技法が完成しており、現代においても当時の画法や彩法が受け継がれています。九谷焼らしい技法と作風が特徴的で、もっともオーソドックスで歴史の古い九谷焼です。
木米(もくべえ)
再興期に九谷焼の復活に貢献した、金沢市の窯です。「中国風の絵付け」と評される通り、器の全面に赤色を塗り埋めしてから五彩を施す彩法が特徴です。また、子どもや老人など人物がモチーフに多いのも木米の特徴といえるでしょう。
吉田屋(よしだや)
再興期に九谷で築かれた陶窯で、芸術性の高い作風が高く評価されたものの、わずか7年という短い期間で廃窯したといわれています。青手(緑を主体とした古九谷の彩法)を再現した「青九谷」を生み出し、再興九谷の中で初めて「九谷焼」と呼ばれるようになった窯元です。
飯田屋(いいだや)
飯田屋八郎右衛門(いいだやはちろううえもん)は、いわゆる「赤絵細描(あかえさいびょう)」と呼ばれる分野の始祖で、「九谷赤絵」の画風を確立した人物です。赤を主体とした綿密な人物画の周りを小紋などで埋め尽くし、金彩を散らしたような彩色が特徴的です。
永楽(えいらく)
再興期に村代山に築かれた陶窯で、赤で塗り埋めされた陶磁器に金のみを使用して絵付けをする金襴手が特徴です。永楽は木米などと同じく「時代絵」と呼ばれる伝統画風の一つで、その洗練されたデザインは世界的にも高く評価されています。
庄三(しょうざ)
九谷庄三は、再興九谷の多くの窯元から技術者として招かれていた陶工です。彩色金襴手の技法を確立させた陶工でもあり、庄三の作風は当時の九谷焼に大きな影響を与えました。窯元ではないものの、彼が確立した陶画は「庄三風」と呼ばれ、「九谷焼中興の祖」と評されています。
九谷焼はギフトにも最適
華やかで美しい見た目と、長い歴史の中で研ぎ澄まされてきた技術。日本を代表する伝統工芸の一つである九谷焼は、大切な人への感謝の気持ちや、健康や長寿などの願いを込めた贈り物にも最適です。
また、外国人の知人や友人へのギフトとしても大変喜ばれますよ。
時代や作風によりさまざま個性を楽しめるのも、九谷焼の魅力の一つです。
ギフトを贈るお相手の好みに合わせて、九谷焼のモチーフやデザイン、形状や色味、風合いなどを選ぶのも楽しみですね。
夫婦の結婚記念日には九谷焼のペアワイングラスや、花詰(はなづめ)などの上品で華やかな茶碗などをそろえるのがおすすめです。特別な日の特別なお祝いには、華やかで気分が高まる九谷焼がぴったり。
還暦祝いや敬老の日の贈り物には、金箔をあしらった九谷焼がいいでしょう。金には物質的な安定性があり、永遠に変わらない性質から縁起がいいモチーフとされています。
現代的な新九谷では、ポップで可愛らしい絵柄のものもたくさんあるので、きっとお相手の好みに合うものが見つかりますよ。
九谷焼で日常を華やかに演出しよう
日常使いができるお手頃な九谷焼から、特別なギフトにぴったりな高級感あふれる九谷焼まで、九谷焼にはさまざまな種類があります。
九谷焼の歴史に思いを馳せると、華やかで彩り豊かな色絵も、いっそう深みを帯びるでしょう。
今回は、九谷焼の歴史と魅力について詳しくご紹介しました。
贈り物にも最適な九谷焼で、ご自分や大切な人の日常を華やかに彩りませんか?
ライター:ちこちゃん