あの日寄り添った音はともに成長していく。落合マンドラD-2と歩む年月

15歳、「マンドラ」に出会いました。

「マンドラって何。知らない言葉…。」

魔法の植物か巨大な打楽器でしょうか。

意味もわからない私に、音楽の楽しさを教えてくれた楽器です。
あれから15年以上たちました。

今でも美しい音を響かせる、青春時代の相棒です。
作り手の情熱がこもった落合マンドラD-2の魅力をお伝えします。

目次

マンドラはこんな楽器

そもそも「マンドラ」とはなんでしょうか。

簡単にいうと、イタリア発祥の弦楽器であるマンドリンの一種です。
マンドラは、マンドリンよりもひとまわり大きいサイズです。

洋梨を半分にカットしたような形で、8本の弦が張られています。
バイオリンやギターのフラットな形状とは異なり、ころんと丸いフォルムです。
フラットマンドリンという平らな形状のものもありますが、音色や材質、弦が異なります。

今お話しているのは丸いフォルムの「クラシックマンドリン」と呼ばれる種類です。

マンドリンとマンドラは身近でよく聴く音

マンドリン類の演奏方法には特徴があります。

ギターのように抱える体勢をとって演奏します。
長さ3cmほどの「ピック」という道具で弦をはじくと音が鳴る仕組みです。

2弦ずつがペアになっているため、2本を1本の弦のように同時に弾きます。
弦を連続して上下させ持続音をだす、トレモロという奏法が多用されます。

このトレモロ音が癒やされるのです。
ころころと地中海を思わせる爽やかな響きがします。

マンドリンとマンドラは、音にも違いがあります。

マンドリンはキラキラとした高音で、主旋律を奏でると舞台でよく映えます。

マンドラはマンドリンよりも低い音。
穏やかなさざ波のような中音です。
メインのメロディから伴奏までこなせます。
青々とした緑の木々から渋みのある秋の空といった音まで、表現の幅が広い楽器です。

カフェやテレビのBGMで、ときどきマンドリンやマンドラのしらべが聴こえてきます。
海が舞台の有名なテーマパークでも流れていますよ。

名前は知られていなくても、耳なじみのある楽器なのです。

泣いて笑って青春をともにしたマンドラ

高校の部活はギターマンドリン部でした。

吹奏楽の弦楽器版というとわかりやすいでしょうか。
マンドリンオーケストラという言葉もあります。

楽譜も読めない、リズムもとれない全くの初心者から始めました。
きっかけは入学式です。

ぎりぎりでやっと受かった高校、知らない子ばかりの列で長い祝辞を聞いていました。
もうすでにいっぱいいっぱいな状態のとき、透きとおる音がしました。
ギターマンドリン部の演奏が、緊張を癒してくれたのです。
すぐに入部を決めました。

まず、パート決めをして使用する楽器を選びます。
マンドリン、マンドラ、ギター、コントラバスと様々なパートに分かれていました。
決まったパートは「マンドラ」です。

じゃんけんで決める伝統があり、「マンドラ」という知らない楽器になってしまいました。
でも、今は負けてよかったと思うほど大好きな楽器です。

ギターマンドリン部は、全国大会に出場するほどの強豪でした。
放課後は毎日活動があり、土日祝日も練習です。
コンクール前は放課後に加えて、朝練、昼休み後の昼練、部活動後の夜練とタイトな毎日を過ごしました。

初心者には厳しい日々です。
いちいちドレミをふらないと音符は読めないし、音楽記号は暗号でした。
部員はピアノや声楽を習っていたり、吹奏楽出身の人ばかりでした。
必死についていくのが精一杯です。

それでも次第に上達し、パートサブリーダーを任せてもらえるまでになりました。
学校の成績は下がる一方でしたが。

今思い返してみても、高校時代は本当に部活一色でした。

マンドラの価格がこんなに高いとは

マンドラは、ギターマンドリン部入部時に購入しました。

マンドリン、マンドラは安いものでも10万円前後かかります。
カーブさせた木材を横並びにつなぎ合わせることで特有の丸いフォルムが形づくられます。
この木材が安価なものであると、経年劣化が起こりやすくなるのです。

そのため、工場でつくられる量産品でも、ある程度の品質が確保できる木材を使用しています。
このような理由で価格を抑えることが難しくなるのです。

職人が手仕事でつくるマンドリンやマンドラは、数十万円以上が当たり前の高級な楽器です。

量産品でも数年は問題なく利用できる品質です。
それならリーズナブルな方でいいかと考えました。

ところが、先輩のアドバイスで考えが変わります。

「永く弾き続けるなら、手仕事でつくられたものがいいよ」

確かに、この先も続けるなら、質のいいものを持っていた方が一生つかえます。
こうして、職人のつくる「落合マンドラD-2」を選ぶことになったのです。

落合マンドラの中でも低価格で初心者に選ばれやすいモデルでしたが、30万円近くしました。

覚悟を決めて一生ものとして迎え入れ、15年が経ちました。
今でも美しい姿のまま、音もよく響きます。

永く一緒に奏でられる匠のマンドリン

落合マンドラD-2は、宮崎にある工房でつくられています。
職人の手作業でひとつひとつ丁寧につくられる落合マンドリンは、国産マンドリン最高峰とうたわれています。

落合マンドラD-2が届いたときの感動は忘れません。

自分専用の楽器を持ったのは小学校で配られるリコーダーやピアニカぐらいです。
ツルツルとしたプラスチックの印象が強くありました。

しかし、落合マンドラは見た目から違うのです。

表は明るめのきなり色で、丸みを帯びた裏側は濃いカラメルのような茶色です。
全体的に艶があり、つるりと滑らかな手触りです。
木の温もりを感じられる風合い。
手で軽く胴体を叩くと、こつんと音が響きます。

こんなにも洗練された佇まいの楽器を迎えられるなんて、信じられませんでした。

注文して届くまでの間は、学校の備品である量産品のマンドラを使っていました。
練習に使うには遜色ない音色です。

それでも、落合マンドラD-2は響きが違うと感じました。
見た目の美しさと繊細かつダイナミックな音に、すっかり心を奪われてしまったのです。

一生懸命練習しようと決意した日です。

朝練・昼練・夜練と、平日毎日土日祝…。
あんなにも練習ができたのは落合マンドラD-2が大好きだったからです。

見るたび弾くたび気分を高揚させてくれる魅力がありました。

弾きこむほどに楽器は育つ

「楽器が音を覚えてよく響くようになる」

マンドラをはじめて1年ぐらいたったころ、プロのマンドラ奏者の方に教えてもらった言葉です。
そのときは「そんなことってあるのだろうか」と疑問を持ちました。

高校2年生のとき、3年生の先輩にマンドラを貸してもらう機会がありました。
弾いてみると、音の響きが違うのです。

新しいマンドラはキンキンと少し尖ったような音に聴こえるのですが、先輩のものは包容力のある暖かさを伴った響きでした。

楽器が音を覚えるとはこういうことかと驚いた瞬間です。

質が高い楽器は長い年月をかけて弾きこみ、育てていくことができます。
手仕事の楽器ならではの魅力ですね。

今では私の落合マンドラD-2も、穏やかな響きを出せるようになりました。
あの言葉は本当だったのだと感じています。

落合マンドリンのこだわり。作り手の熱意は奏者に伝わって

1963年、落合忠男さんが創業した落合絃楽器から、落合マンドリンは生まれました。

宮崎にある工房で、職人が手仕事で楽器をつくっています。
現在の代表は落合忠男さんの息子である落合大悟郎さんです。
弟の三四郎さんとともにこの工房を営んでいます。

落合マンドリンは品質が高いことで知られています。
全国のマンドリンクラブやサークル、国内外の指導者やプロ奏者からも愛用されているほどです。

落合マンドリンは、すべての工程を職人の手で行っています。

原材料である木材も職人自ら現地に向かい、材料選定をしているのだとか。
日本の気候に馴染むよう数十年自然乾燥させ、さらに選別をして楽器作りが始まります。
丁寧なものづくりによる音程の正確性、個体差のない仕上がりで安定した音色を実現できます。
弾きこむほどに深みを増し、より響く音色を奏でられるようになるのです。

まさに匠の技術です。

世界に誇れる国産マンドリンを手がける落合絃楽器。
落合マンドリンは、職人のこだわりと情熱でつくられます。

落合マンドリンを受け取った奏者は、大切に弾き込むことで楽器を育てていきます。
楽器は、演奏されて初めて「音楽を聴き手のもとに届ける」という本来の役割を果たすことができるのです。

落合マンドリンを取り扱う楽器店に、紹介動画が掲載されています。
その中に、「奏者に育ててもらう」というトピックがあります。

「奏者が自分の分身と思えるような楽器を作りたい」

そういう意味のことを職人さんがおっしゃっています。

弾き手に対する愛情を、楽器に込めて製作しているのだなと感じました。
だからこそ、奏者は落合マンドリンに愛着をもち、大切にできるのでしょう。
そして、豊かなパフォーマンスを発揮できるのではないかと思います。

大人の趣味にもずっと弾き続けられるマンドラ

大人になって、別の音楽の趣味を始めました。
新しい音楽に挑戦できたのは、基礎を学ばせてくれたマンドラのおかげです。

以前よりマンドラを弾くことは少なくなりましたが、今でも演奏を聴いてもらえる機会があります。

「この楽器きれいだね」
「初めて知ったけどいい音だね」

そう言ってもらえることもあり、自分のことのようにうれしくなります。

年を経て表面の色が濃くなりました。
それでも哀愁を帯びた表情が気に入っています。
経年による変化もまた味があり、愛着が湧きます。
音も尖りが取れて、穏やかによく響きます。

マンドリンやマンドラは、初心者でも始めやすい楽器です。
きれいな音が出せたときは感動します。

各地にさまざまな団体もあって、所属して合奏する一体感を味わうのも楽しいです。
子どもから大人まで続けられる趣味なので、質の高い落合マンドラD-2を選んでよかったと思っています。

手間がかかるほどいとおしい

部屋の整理中、部活で使っていた楽譜が見つかりました。
処分しようと思いましたが、どうしても捨てられません。

「構成を正しく」
「笑顔で」
「いち音いち音しっかりと」

書き込みで真っ黒になった紙面を見ると、あの時の悔しさや幸せな瞬間がよみがえります。
落合マンドラD-2も、思い出をよみがえらせる大事な存在です。

とはいっても楽器のメンテナンスって手間がかかるなと思います。

マンドリンやマンドラは木でできています。
楽器として形を変えた後でも呼吸をしているのです。
そのため、温度や湿度の影響を受けやすい特徴があります。

適切な湿度に保つ道具を楽器ケースに入れておき、直射日光に当たらないよう保管するなど気を配っています。

弦が錆びたり、ブリッジという音程調整に関わる部品がずれることも。

最近、なじみの楽器店で新しい弦に交換してもらいました。
クリーニングもしてもらってすっきりとした印象です。
マンドラもなんだかうれしそうに見えます。

マンドリンよりも大きくて持ち運びも体力勝負。
メンテナンスも手間がかかります。
だからこそ、いとおしく大切にしたくなるのです。

作り手のこだわりや愛が詰まっているから、余計そう感じるのかもしれません。

落合マンドラD-2は一生もの

マンドリンの一種マンドラは、中音域のやさしい音色を奏でます。
演奏方法に特徴があり、トレモロ音は癒しの音色です。

とはいえ、高額でメンテナンスに労力を要します。
それを含めても永く愛着をもって大切にしたくなる楽器です。

そのベースには、職人の込めた想いがありました。
職人魂に胸が熱くなります。

作り手と弾き手をつなぐ楽器は、素晴らしいハーモニーや感動を生みだすのでしょう。
両者の努力が重なって一緒に音を奏でるのだと、しみじみ思いを馳せました。

青春を彩った落合マンドラD-2との思い出は、いつまでもその響きとともに残ります。

参考

イケガクホームページ「落合手工マンドリン 世界に誇れる匠の一品」
https://ikegaku.co.jp/pages/ochiai-mandolin(2023年1月21日)

イケガクスタッフブログ「マンドリンって値段によって何が違うの?」https://ikegaku.hatenablog.com/entry/2021/03/05/190229(2023年1月21日)

島村楽器ホームページ「【初心者】マンドリンの選び方特集!!当店ラインナップ紹介」「どうしてエントリーモデルでも7万円以上するの??」
https://www.shimamura.co.jp/shop/fukuoka/product/20200826/28280(2023年1月21日)

ライター:佐賀さき子

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